感情は、「見ているもの」をゆがめてしまう

FXトレードの判断は、感情に左右されてはいけない——。
このような考えを持っている方は多いのではないだろうか。
「トレードは理性で行うもの」「チャートは客観的なデータだから、気分に関係なく判断すべき」
——そのように思う気持ちにも、うなずけるところがある。
しかし、認知心理学や脳科学の研究は、そうした考え方とは異なる視点を示している。
たとえば、人はネガティブな感情状態にあると、視野が狭くなり、リスクを避ける方向に思考が偏りやすくなる。
逆に、ポジティブな感情状態では、脳は開かれ、リスクをとる判断に切り替わる傾向があるという。
つまり、感情によって“見え方”が変わる可能性があるのである。
本記事では、
ある女性学習者の実例を紹介しながら、
「なぜ、人は“事実”とは違う判断をしてしまうのか」
その背景にある感情と脳のしくみについて、やさしく解説していく。
また、
私たちEDGEコミュニケーションが行っている、「感情を味方につけるための学び方」についてもご紹介したい。
トレード事例:感情が、判断や行動に影響を与える

ご紹介するのは、EDGEで学んでいる女性・Aさんの事例である。
学習1年目ながら、昨年は年利30%を達成。学び方を着実に積み重ねてきた方である。
ところが最近は、仕事で残業が続き、心身ともに疲労がたまっていた。
さらにプライベートでも不安になる出来事が重なり、気分が落ち込みがちだったという。
トレードにおいても負けが続き、少し自信を失っているように見えた。
そんな中、Aさんの「ある週の振り返りメモ」に、次のような記述があった。
「7/13朝、EURUSDは3月末の日足高値が気になり、エントリーできなかった。
20時は仕事が終わらず、チャートを見ることができなかった。」
このように、Aさんは自分の行動を客観的に振り返ろうとしていた。
一見すると、問題はないように思われるかもしれない。
ところが、この記述の中に大きなズレが存在していた。
「EURUSDは3月末に日足高値があった」
実際のチャートを確認すると、3月末にはそのような高値は見られなかったのである。
なぜ、このような“事実と記憶のズレ”が生じたのだろうか。

エントリーしていたら「大きな利益」になっていた。

左脳による作話」——脳はもっともらしい“物語”を作る

この現象を理解するヒントを与えてくれるのが、神経科学者マイケル・S・ガザニガの理論である。
彼は、
「左脳が自動的に“もっともらしい物語”を作り出す」という現象を「作話(confabulation)」
と呼び、脳の構造として説明している。
ガザニガの理論によれば、次のようなプロセスが働いている。
1. まず、右脳側で「どう感じたか」「どうしたいか」が先に決まる。
Aさんの場合であれば、最近の負けが続いていたことや心身の疲労から、
「リスクをとりたくない」
「今日はエントリーしたくない」
といった感情的な傾向があったと思われる。
2. そのあとで、左脳が「それらしい理屈」を作り出し、自分の判断に理由づけをする。
「3月末の高値が気になった」というのは、エントリーを避けたことを正当化する“もっともらしい説明”だったのではないだろうか。
ここで注目すべきは、この一連のプロセスは無意識で、かつ自動的に起こっているという点である。
Aさん自身は、けっして嘘をつこうとしたわけではない。
ただ、脳が自分自身を納得させるために、「理由」をつくりだしてしまったのである。
脳は、ストーリーを求めている

人間の脳は、「理由」があると安心するしくみになっている。
だからこそ、たとえ事実とズレていても、「理屈づけ」がなされていれば、人は納得してしまう。
この「ストーリー化」の働き自体は、生きていくうえでとても重要な能力である。
ただし、感情が乱れていると、そのストーリーは現実から離れてしまうことがある。
そして何よりもやっかいなのは、
そのズレを、本人が“正しい判断”として受け取ってしまうことである。
感情を味方につける、EDGEの学び方

このように、トレード判断には「感情」と「脳の解釈」の関係が深くかかわっている。
そこで、EDGEコミュニケーションでは以下のような工夫を取り入れている。
▷ 疲れているとき、気分が落ちているときは、トレードを控える
→ 判断がゆがむリスクを避けるための、大切な前提である。
▷ OCO(自動決済)でエントリー前に“先に決めておく”
→ 感情に流されずに利確・損切りができるしくみを整える。
▷ 学びの場に「雑談タイム」を取り入れる
→ 近況を話し合うことで安心感が生まれ、心が少しずつ整っていく。
この時間は、単なるおしゃべりではない。
感情を整え、学びやすい“脳の状態”をつくるための、大切なプロセスである。
おわりに:感情と上手につきあうということ

「感情は邪魔なもの」「コントロールしなければならないもの」——
そう考えると、トレードがどこか苦しく感じられることもあるかもしれない。
けれども、感情は“整える”ことによって、トレードの味方になってくれる存在でもある。
今日のあなたの気分はどうだろうか?
「なんとなく疲れているな」「ちょっと気分が重いな」——
そんな感覚があるときは、それがチャートの見え方にも影響しているかもしれない。
感情を知ること。整えること。そして、それに気づくこと。
それこそが、チャートを正しく読む力につながっていくはずである。
これからも、感情との上手なつきあい方を、少しずつ育てていけたらと思う。
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